ふたりブログ

毎回とあるテーマでつづります

文学を語る

テーマ【文学】

 

先日のブログで、南阿蘇へ行った時のことを書いた。そもそも熊本に行こうと思ったのは、夏目漱石ゆかりの地を訪ねたかったからである。漱石は熊本に43ヶ月滞在したのだが、そのうち18ヶ月を暮らした家が今も記念館になっていて残っている。そこでは「吾輩は猫である」の初版や、キリのよいシリアル番号の旧千円札などが飾られていた。旅行中は「草枕」を持って行って読んでいたが、舞台となった小天温泉には行かなかった。

ちょうどその頃の私は少し悩んでいて、大学の講義を聴く気にもなれず、家でゴロゴロする日々を過ごしていた。そんな時、ふと手に取った夏目漱石の前期三部作を読んで衝撃を受ける。これらの主人公は今のニートに通ずるような境遇で、100年以上前に書かれたにもかかわらず、共感できるポイントが多々あって面白い。どの時代にもダメな人間はいたのだなと思うと、自分の悩みがちっぽけに感じてきて、私は次第に大学へ足を運ぶようになった。

私の読書遍歴は近代文学なしでは語れない。元々全く読書などしなかった自分が本好きになったのは、武者小路実篤の「友情」がきっかけである。先の展開が気になってしまい、授業中も机の下に隠しながら没頭して読んでいたのを今でも覚えている。その後しばらくは現代小説や新書などを読んでいたが、前述で漱石にハマってから近代文学に熱が入り、島崎藤村谷崎潤一郎三島由紀夫といった有名作家の小説を読みあさっていた。大学を卒業してからも、一時期仕事が思い通りにいかなくて悩んでいたことがあった時、支えになってくれたのは太宰治の作品であった。

近代文学の良さは、普遍的な人間の悩みを、美しい日本語で表現しているところにある。明治から昭和の激動の渦中にあって、当時の日本人は内面で様々な弱さが露呈された。それらを多彩に表現しているのがこの時代の文学の特徴であろう。また、文才においては、漱石をはじめとする彼らの文章が今の日本語を作ったと言っても過言ではない。私が文学を語るにはまだまだ知識が浅いが、本の紹介となると話は尽きなくなる。あまり時間が長くなりますからこれでご免を蒙ります。*1

 

2018.05.20 T.Y.

 

次回はテーマ【先生】

明かり

テーマ【明かり】

 

 昨年12月のノーベル平和賞授賞式、サーロー節子(旧姓:中村)さんの、自身の被爆体験を踏まえた演説中に、こんな台詞があった。「"Don't give up! Keep pushing! See the light? Crawl towards it." *1 8月6日、爆発による瓦礫の中で、この言葉を言ってくれた人がいたという。言葉通り諦めなかったことで九死に一生を得た彼女は、演説の最後にもう一度この言葉を繰り返し、諦めずに非核化を目指すことを世界に訴えた。

 世界平和を望んでいない訳ではないが、初めてこの演説を聴いたときには、あまり納得感がなかった。地雷禁止も、クラスター弾禁止も聞いたことはあるが、世界が着々と平和に向かっている実感はないからだ。今回も大して効果はないんじゃないか。平和の希望がハッキリと見えていないのだから、"See the light?"と訊かれたら、答えは"No"だ。

 と、思っていたのだが、ふと、違う捉え方もあるのでは、と考え直した。演説の"light"は希望や可能性を指しているのではなく、目的地であるとか、あるべき姿を指しているのではないか。具体的にはこの場合、「核兵器のない世界」である。核兵器禁止条約*2は、要は「核兵器はない方がいいよね」という、庶民にしてみれば「わざわざ言う意味あるか?」と思えるものだけど、「世界(国連)が民主的に決定した」ことに大きな意味があるのだろうと思う。世界中が目指すべき"light"の位置を確認したわけだから、後は進むだけだ。

 大切なのは目的を明確にすることだ。目指すところがハッキリすれば、そこに至る手段はいくらでも考えられるから。世界の非核化と個人的な経験を同列にするわけではないけれど、仕事上でも活かせる考え方だ。「これ、何のためにやってるんでしたっけ?」という、目的不明確なプロジェクトの数々に対してである。決して上司への愚痴ではない。自分自身、よくわからず動いていることがあるから、自戒を込めて。 事の大小を問わず、まず"light"を明確にすること。そうして、諦めずにそこへ突き進んでいくこと。

 

2018.05.13 T.N.

 

次回はテーマ【文学】

*1:「諦めるな。押し続けろ。明かりが見えるだろう?そこに向かってはって行け」

*2:核兵器禁止条約 - Wikipedia

2014年W杯のこと

テーマ【逆転】


今年はサッカーのW杯が開かれる。ご存知の方も多いとは思うが、W杯は4年に一度行われていて、今回はロシアが開催国である。前回(2014年)はブラジルで行われた。振り返ると、前回大会の中では、グループリーグのスペインvsオランダが一番印象的だった。

この試合でオランダは守備的な5バックの布陣をとった。それでもスペインはジエゴ・コスタが獲得したPKをシャビ・アロンソが決めて先制。それでもオランダは一向に守備の布陣を崩さないため、攻撃のチャンスがほとんどなかったのだが、前半終了間際にファン・ペルシーのダイビングヘッドで同点に追いつく。このゴールは2014年大会のハイライトのひとつであっただろう。後半もスペインのペースで進んでいたのだが、一瞬のカウンターでロッベンが逆転ゴール。その後フリーキックからデ・フライがダメ押し。以降スペインは全く見せ場がなくなってしまい、ファン・ペルシーとロッベンがそれぞれ追加点を挙げて点差が広がり、1-5でスペインの逆転負けという結果に終わった。

スペインvsオランダは前々回(2010年)大会の決勝と同じカードで、この時はスペインがオランダを破って優勝した。2014年大会で再戦する際も、下馬評ではスペインの方が優勢であった。しかし、ブラジル大会ではオランダが見事な逆転劇を演じた。それも大差での勝利は誰も予想ができなかったであろう。大会初戦で大きくつまづいた前回覇者スペインは、次の試合でチリにも負けてしまい、まさかの予選敗退という結末で2014年大会の幕を閉じた。

これはある本で読んだのだが「たいていの場合、負けの原因というのは、相手ではなく、我々がつくって」いるとのことだ。スペインvsオランダの場合、おそらく実力ではスペインの方が上回っていただろう。それがワンチャンスでオランダが追いついてから、スペインは本来の実力を失い、相手の勢いに乗せられてしまった。勝負事では勝とうとしてはいけない代わりに、いかに負けないようにするかが大事なのかもしれない。

今年のロシア大会でもきっとエキサイティングな試合が数多く繰り広げられるだろう。むしろスリリングな展開を期待している自分もどこかいる。そして、できれば我らが日本代表にこそ、世界を驚かすような逆転劇の立役者となってもらいたい。

 

2018.05.06 T.Y.

 

次回はテーマ【明かり】


[ご報告]このGWは、以前「行きたいところはどこか」で書いた、スペイン巡礼へ行ってきました。その模様につきましては、ゆくゆく別の機会で紹介したいと思います。

 

オススメの映画

テーマ【オススメの映画】

 

 ブルースブラザーズ(1980 米)は楽しい映画だ。

 きっと全てのブルースブラザーズファンが、この映画に芸術的革新性や、社会的意義や、道義的価値や、人生における教訓を見出だしていないだろうと思う。ただただ面白くて、楽しい映画なので、何も気負わずに観られるし、何度でも楽しめる。内容は一言で言えばコメディ・ミュージカル。多くのレジェンドミュージシャンの歌と踊りを見せ場において、物語は、粋なジョークを交ぜつつ、コントのように軽快に進んでいく。その場その場で笑えれば、ストーリーは忘れてもO.K.だ。

 

 ■私的見どころ1:Think

 ストーリーはおおまかに「生まれ育った孤児院の資金難を知る」→「お金を集めるため、散り散りになったメンバーを呼び戻してバンドを再結成」→「クライマックスは満員の観客の前でライヴ」という感じ。これは夫婦で食堂を営んでいた元ギターをバンドに呼び戻そうとした際、その奥さん役のアレサ・フランクリンが「あなたがまたバンドを始めたら私はどうなるの?」と歌い始めるシーン。アレサの歌を聴いたことのない人は是非一度聴いてみて欲しい。あれほどソウルフルで力強い歌声の人は世の中にそうそういないだろうと思う。音楽の素晴らしさはもちろん、映画のワンシーンとしてもイカしている。厨房にいたバイト君(?)がどこから取り出したのか、曲の途中からサックスで参加しているのが最高。テンションがあがったのかカウンターの上でステップを踏みながら吹いているシーンがお気に入り。

 ■私的見どころ2:Everybody needs somebody to love*1

 圧倒的クライマックス、コンサートシーンの名曲がこれ。揃いのスーツに揃いのハット、揃いのサングラスでキメている2人がステップを踏んでるもイカすし、サビで客が全員立ち上がっていくのを見ると、こちらも興奮しすぎて声が出てしまうほど。絶対の自信があるけど、演者もこれを演ってて楽しかったろうなと思う。バックでギターを弾きながら、自然と笑顔がこぼれるマット・マーフィーがイイ!

 とにもかくにも、ブルーズ・ブラザーズは素晴らしい。だって、観ていて楽しいから。

 

 

2018.04.29 T.N.

 

次回はテーマ【逆転】

小説ハンカチ

テーマ【ハンカチ】

 

「男のハンカチは女の涙を拭くためにあるんだよ」

ある晩、テツオはレンタルした映画を家で見てて、人生経験豊富な老人がこのセリフを発したのを耳にした。そんな矢先、翌日に彼はガールフレンドからデートに誘われる。午後に約束し、その前にテツオはデパートへ寄って、1枚のハンカチを購入した。それを早速ジャケットにしのばせた。

出会うや否やガールフレンドは「話があるの」と彼を喫茶店へ連れて行った。スコーンをかじりながらコーヒーをたしなみ、はじめは当たり障りのない会話だった。話が本題に入る前に、テツオは彼女にひとこと断りトイレへ。用を足し、鏡の前で手を洗い、ペーパータオルで手を拭いた。ジャケットに入れたハンカチはあえて使わなかった。

テツオが席に戻ると、ガールフレンドは開口一番別れを切り出した。淡々と言い訳を述べる彼女の顔からは一滴の涙も落ちる気配もない。話をひと通り終えた彼女は喫茶店を去り、テツオはコーヒーをもう一杯飲んだ。ひとり喫茶店を出たテツオは、昼下がりの都会を人混みに紛れて歩いた。最初は行くあてもなかったが、途中ふと映画館の前で立ち止まった。ちょうど10分後に上映する洋画があったのでチケットを買って中へ入った。公開終了間際の作品だったためか、人はまばらだった。

映画も終盤にさしかかった頃、ふたつ空席を挟んだ横ですすり泣く女性にテツオは気付いた。そこで彼はそっとジャケットのポケットからハンカチを取り出して、その女性に差し出した。女性はテツオのハンカチで涙を拭うにとどまらず、そのまま鼻を咬み出したのだった。テツオは映画の終わりを待たずして、ハンカチも返してもらうことなく、その場を立ち去った。

 

2018.04.23 T.Y.

 

次回はテーマ【オススメの映画】

デパート

テーマ【デパート】

 

 スーパーでもショッピングモールでもない高級感。それがデパート(百貨店)なのだと思う。そのデパートが最近、次々と閉店しているとのこと。色々と原因はあると思うが、種々様々な人たちが、各々の価値観を持っている結果だとすれば、それは必ずしも暗いばかりのニュースではない。

 日経や東洋経済の記事をざっと読むと、閉店の大きな原因はスーパーでもショッピングモールに客をとられていることのようだ。スーパー等がここ最近、急に勢力を拡大したわけでもないのだから、消費者の側に変化があったのだと思う。自分の両親の世代では「デパートで高級感のあるお買い物」がある意味社会的なステータスになっていた時代だろう。そしてまた、情報の流れがTV・ラジオ -> 消費者 への一方向で、多くの人が「欲しいもの」について同じ価値観を持っていたのだと思う。今現在でも「見栄」や「ステータス」の考えはあるけれど、僕のような庶民もこんな形で情報発信ができるようになったこともあって、価値観はかなり多様化してきていると思う。「みんな」が憧れていたデパートは、「好きな人だけ」が行くところ、になったんじゃないだろうか。

 価値観の多様化、デパート以外にも例がある。「若者の○○離れ」というやつ。車、新聞、結婚、酒というのが挙げられるらしいが、「こうすることが幸せ」「これを買うのが幸せ」というものが、今はどんどん崩れてきている。例えばお酒。今じゃ人に無理矢理勧めるのはちょっとした社会問題だ。自分が下戸なので、新入社員の時は「俺の酒が飲めねぇのか」タイプがいるんじゃないかとビクビクしながら飲み会に参加した。幸い、上司・同僚に恵まれてそんなことはなかったけれど、30年前ならそううまくはいかなかったろうと思う。

 最初に戻ってデパートの話。閉店は寂しいことだが、上に書いたとおり「画一的な価値観がなくなってきている」と捉えれば、それは"良いこと"でもある。多様な価値観を認め合って、異なる価値観の人がお互いを尊重する、そういう社会の土壌になり得ると思うから。

 

## 追伸:デパートに行かないのは単に「金がない」というのも大きな原因と思う。とはいえ、日本の貧困を語るのは今の私では手に余るので……

 

2018.04.15 T.N.

 

次回はテーマ【ハンカチ】

自分に告ぐ

テーマ【幼い頃】


この週末はフットサルの講習会に参加していた。選手のトレーニングを見学したり、時に選手のトレーニングを体験したりしながら、フットサルGKのプレーモデルと指導法について勉強させてもらった。思えば、私がサッカーを始めてからかれこれ15年以上が経つ。指導者という立場で、幼い頃の自分にどんなアドバイスができるか考えてみることにした。
まずは、一流のプレーにふれてほしい。プロの試合は最高のお手本だ。できればスタジアムに行って観戦してほしい。サッカーという競技はボールに触れる回数は少なく、むしろボールを持っていない時の動きの方が重要であったりする。それはテレビではなかなか映ってこないからだ。また、ライブの臨場感を肌で味わうのも大事な要素。気に入ったプレーはどんどん盗んで身につけて、自分の引き出しを増やしてほしい。
次に、周りの目を気にしないでプレーしてほしい。かつてはチームメイトやコーチ、親などの評価を気にしすぎていたため、ピッチの上でも常に萎縮していた。往々にして身内からの意見はネガティブな要素に偏りがちになる。一方でトップレベルのコーチは、いいところを見つけて褒めるのが非常にうまい。成功体験を積み重ねていけば向上心も生まれて、自ずとうまくなっていく。オープンマインドで、リスクを恐れずにトライすることの方が重要だ。
もうひとつ、個人練習に最も時間を割いてほしい。サッカーはチームスポーツといえど、最後に頼りになるのは個の力だ。現代サッカーはどんどんプレースピードが早まってきている。ボールを見て、顔を上げて周りを見て、もう一度ボールを見た瞬間には、すでに状況が変わってしまうほどだ。コートの狭いフットサルではもっと素早い判断が求められる。そこで大事なのは再現性、如何なるときでも同じ質のプレーができることである。こればかりはコツコツと磨いていくしかない。
今回はサッカーを取り上げたが、かつての自分へのフィードバックは他のことにも展開できそうだ。下記は「アンネの日記」で知られるアンネ・フランクの父であるオットー・フランクの言葉である。彼が言うと言葉の重みは一段と増すのだが。

To build a future, you have to know the past.

 

2018.04.08 T.Y.

 

次回はテーマ【デパート】