ふたりブログ

毎回とあるテーマでつづります

今日の花

 テーマ【今日の花

  お題は、"今日の花"と出た。何か話のタネはないかと思って、少し遠く、田舎の方にある、行ったことのない図書館まで出かける。昼過ぎに出て、日の傾いた頃、到着。2階の書架はおそらく東か北向きで、夕陽は差し込まず、窓の外は真っ赤な夕焼けではなく、建物の影と、薄い紫と、橙色とが段々になって見えていた。棚の間を、閉館時間を気にしながらざくざくと歩く。自然科学、生物、植物、大型本、写真集、雑誌の当月号、日本国法規、環境関連法……どれもイマイチなので、館の検索システムで"花暦"と名のつく本を調べて、受付の方に相談した。調べたものの多くは、一般書架にはなく、書庫の中にあるとのことで、4冊だけ、探してきて頂くことにした。
 しばらく待って手渡された本は「あ」と思うほど冷たかった。陽の当たらない、冬の書架が感じられた。書庫から掘り出された本のうち、1冊、良いものが見つかった。『江戸名所花暦*1』、その名の通り、東京の花の名所が書かれている。ここに記載されている花を見に、翌日、実際に東京は亀戸まで行ってみた。
 
 花暦の冬の部、第一に書かれているのが寒菊だったが、残念なことに現代には姿を消しているようだ。本には『平河山法恩寺 本所柳しまにあり。此梵刹*2のうしろのかた農家にて季候(ときどき)の草花を作れり~中略~諸草みな枯たる中に、黄金いろなる田園を見渡すこと いとめつらし』とある。これを目当てとして行った法恩寺は、立派なお寺として今も残っていたが、住宅街に建っており、そのまわりに田園はなく、当然、裏に寒菊を作っている農家はなかった。代わりに大通りに出ると、江戸の人たちには想像もできなかったであろう、大きなスカイツリーが目に入り、時代を感じる。百年後は、今の自分に想像もできない東京になっているんだろう。ただ、亀戸での収穫は、近代的な街並みで時代を感じるだけではなかった。
 ついでのつもりで入った神社やお寺で、多くの花をみつけた。椿、山茶花十両木瓜水仙。少し早いが、紅梅や蝋梅が咲いているところもあった。鳥居の裏や、本殿の傍らに、さりげなく咲いているものが多い。よく言われるところではあるが、人というのは見ているようで見ていない。意識してみて初めて気付くことがある。今日見つけたものは、どれも"花"を探しにいったからこそ見つかったものだと思う。普段気付かずに通り過ぎてしまう"良いもの"を見つけるには、意識してそれを探そうとする他ない*3。そんな事を考えた2日間だった。
 
 それともう一つ、花暦に限らず情報は更新すべきだと思う。江戸の頃からずっと良い場所、というのもあるが、今の東京だからこそ感じられる良いところもあるだろう。過去の名所に囚われて、今見られる良いものを見逃してしまっても、勿体無いかな、と感じた。
 
 
2019. 1. 14 T.N.

*1:私が手に取ったものとは異なるが、国立国会図書館デジタルコレクションにて閲覧可能なようだ(江戸名所花暦 - 国立国会図書館デジタルコレクション)。ブログに記載した「冬の部」はコマ番号71より始まる

*2:梵刹は寺を指すので、「このお寺」という意味

*3:それが探す必要もないほどはっきりと目の前に飛び出してくる場合を除いて