ふたりブログ

毎回とあるテーマでつづります

短編:ドーナツ

テーマ【ドーナツ】

 ※このお話はフィクションです。


 正月の話。懐かしい友人に会った。稚内に勤めていて、なかなか会えなかったが、久し振りに東京まで帰ってきたとのことで、ちょっと飯でもと誘ったのだ。こいつが中々のホラ吹きで、いつも適当なことを喋っているから何が本当なのかわからない。罪のないジョークがほとんどだが、何度かホラを真に受けて恥をかいた事があるもので、以来、こいつの言うことは信じない。こいつと比べれば、9つになったばかりの甥っ子の方がまだ信用できる。こいつの最新のネタが、「ドーナツ」だった。

  「ドーナツの穴だけ売ります」という商売があるという。個包装された袋の中に、ドーナツの穴だけが入っている。一見何もないようだが、開けるとドーナツの穴を取り出すことができて、食べると、ドーナツを食べ終えたときのような気持ちになるという……さすがに嘘だろうと突っ込んだが、友人は真実だと譲らない。なんなら、見せてやるから、正月休みのうちに一緒に稚内に来いとまで言う……
 こうなると頭がボンヤリしてくるのが僕の悪いところだ。気になって気になって、実際に行って確かめるより他ないという気持ちになってくる。他に予定はないし、行ってみようか。今から実家に戻って、荷造りして、間近ではあるが航空券さえとれれば、真相を確認できるじゃないか。
 今日発の腹積もり。急ぎなので、自分で荷造りをしている間、姉夫婦と共に実家に帰っていた可愛い甥っ子に、飛行機のチケットを探してもらう。
「ごめんね、叔父さんのPC使ってさ、一番早く稚内に行けるやつ探してみて。あと、JALでなきゃダメなんだ。マイル貯めたいから」
「はーい。でも叔父さん、稚内行きって、JALはないみたいだよ?」
「嘘だあ。絶対あると思う。天下の日本航空だぜ?」
「う~ん。ドーナッてんだろ? ANAだけだよ」

  

 2018.06.10 T.N.

 

次回はテーマ【10年後】