ふたりブログ

毎回とあるテーマでつづります

小説ハンカチ

テーマ【ハンカチ】

 

「男のハンカチは女の涙を拭くためにあるんだよ」

ある晩、テツオはレンタルした映画を家で見てて、人生経験豊富な老人がこのセリフを発したのを耳にした。そんな矢先、翌日に彼はガールフレンドからデートに誘われる。午後に約束し、その前にテツオはデパートへ寄って、1枚のハンカチを購入した。それを早速ジャケットにしのばせた。

出会うや否やガールフレンドは「話があるの」と彼を喫茶店へ連れて行った。スコーンをかじりながらコーヒーをたしなみ、はじめは当たり障りのない会話だった。話が本題に入る前に、テツオは彼女にひとこと断りトイレへ。用を足し、鏡の前で手を洗い、ペーパータオルで手を拭いた。ジャケットに入れたハンカチはあえて使わなかった。

テツオが席に戻ると、ガールフレンドは開口一番別れを切り出した。淡々と言い訳を述べる彼女の顔からは一滴の涙も落ちる気配もない。話をひと通り終えた彼女は喫茶店を去り、テツオはコーヒーをもう一杯飲んだ。ひとり喫茶店を出たテツオは、昼下がりの都会を人混みに紛れて歩いた。最初は行くあてもなかったが、途中ふと映画館の前で立ち止まった。ちょうど10分後に上映する洋画があったのでチケットを買って中へ入った。公開終了間際の作品だったためか、人はまばらだった。

映画も終盤にさしかかった頃、ふたつ空席を挟んだ横ですすり泣く女性にテツオは気付いた。そこで彼はそっとジャケットのポケットからハンカチを取り出して、その女性に差し出した。女性はテツオのハンカチで涙を拭うにとどまらず、そのまま鼻を咬み出したのだった。テツオは映画の終わりを待たずして、ハンカチも返してもらうことなく、その場を立ち去った。

 

2018.04.23 T.Y.

 

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