ふたりブログ

毎回とあるテーマでつづります

牡蠣

テーマ【牡蠣】

 

最近めっきり、本を読んでいない。最後に読んだ本を思い出せないくらいに、読んでいない。何か読もう。何を読もうか。ああそうだ、牡蠣についての本を読もう。

タイトルは「森と山と日本人」という。山形大学で行われた、自然に関する識者の講義録で、農業や民俗学の専門家11人の講義が文字に起こされている。タイトルには「森と山」とあるが、この中にただ一人、云わば"海の人"がいた。本職は牡蠣の養殖、名前は畠山重篤さん。今回はその方から学んだことに対する読書感想文としたい。

 

一番重要で、一番感動したことを端的に言うと、森が豊かな海をつくるということだ。そうして、豊かな海で、おいしい牡蠣が育っていくという。順を追って理由を書くと、まず牡蠣の成長には植物プランクトンが必要だということ。次に、海で植物プランクトンが育つためには、その湾に栄養たっぷりの川が注ぎこむことが必要だということ。栄養たっぷりの川は、森林の腐葉土を通った水が、点滴のように川に注がれなければ決して存在しないということ。以上。こういう訳で、めぐり巡って『森が海を育てている』ということになる。畠山さんが代表を務めるNPO法人は、その名も「森は海の恋人」という。活動内容は、例えば山に登っての植樹。牡蠣の養殖家が植樹、という一見不自然なことの背景には、実は既述のような訳がある。

めぐり巡ってわが身のためとは良く言うが、世の中全てのことは至る所で密接に関係していて、(地理的に、または精神的に、はたまた政治的、学術的、その他いろいろ的に)どんなに遠くのことでも、すごい影響力を持っていたりする。そしてまた、怪我したところに絆創膏を貼るように、"そこだけ"で解決する問題ではないことが多くある。海を豊かにするためには、海を背にして山に登る必要があるように、普段向いている方とは別のところに答えがあったりする。例えばこの場合、どんなに海に深く潜っても、牡蠣の育ちが悪い原因は出てこない。そんな問題に直面したとき、余裕と遊びと、無意味と思っていた知識や出会いが役立つのだろうと思う。そう考えると、仕事でも趣味でもないのに、牡蠣についての本を読むということも、とても有意義じゃないか。

 

 

2018.03.06 T.N.

 

次回はテーマ【ポール・マッカートニー